secret heart plus

さきっぽのGH二次創作ブログへようこそ。

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きみはペット(後半)





強制させられているという意識が強すぎたのだろうか。
一晩明ければ、昨日は全く気付かなかった事が山ほどあった。


「良い匂いでしょ?」


ナルの衣服を干す時だけ変化する麻衣のなんとも言えない嬉しそうな表情。
丁寧に皺を取り除きながら次々とハンガーに掛けてゆく。
その手際の良さは普段の彼女からは想像がつかないどころか、目の前にしても似合わないと思わせるほどだ。


「ナルのまくらー」


枕カバーを替える時には、一度それに頬を寄せてぎゅっと抱き締めていた。
彼女はひとつ大きく息を吸い込んで、ふわんと柔らかく微笑む。
それに倣って麻衣の枕を腕に抱いてみると、シャンプーの香りが鼻を掠める。
同じものを使っているというのに、まるで違うその香り。


「えーっ!昨日もやったのに、これもやるの?」


清潔に保たれたほとんど白に近い雑巾で床を拭く時は、文句を言っていたくせに、懸命になり過ぎて額に汗を滲ませていた。
そんな彼女を横目に見て、まるで子供のようだと思う。
微笑ましい光景にぐっと頬を引き締めたら、すっごい仏頂面、とか、そんなような事を言いながら麻衣がフローリングを転げ回った。
それには何がそんなに楽しいのかと首を傾げるばかりだった。


「お昼の欄はここ」


食事は菜食主義者であるナルがバランス良く栄養を取れるよう、一週間分の献立が作ってある。
おおざっぱな麻衣の性格からは考えられないほど癖のない綺麗な字。
そう言われなければ麻衣が書いたものだと気がつかないだろうなと思って、知らずに顔をしかめた。


「そこは一昨日の夜からバッチリだもんね」


ふと思い立って覗いた靴箱には、ナルが毎日履く革靴が綺麗に磨き上げられ、麻衣の小さな靴に寄り添うように置かれていた。
家を出る時にはフロアに出されているのだろう、いつものように。

得意気な彼女の頭を軽く小突く。
いつもこんなふうに過ごしているのだろうか。
ナルに関わるもの全てが嬉しい、愛しい、まるで宝物を扱うよう。
ころころと変わる表情はその殆どが幸せに満ち溢れていて、正直見るに耐えない。
呆れるほどに楽しそうだった。





「はいナル、あーん」


箸で掴み上げたアスパラを上機嫌で口元に運ぶ麻衣に、ナルは眉間に皺を寄せると心底嫌そうな顔をした。


「それは無理だ」
「ダメ!昨日は出来なかったんだから」


考えるまでもなく首を振って却下するが、麻衣も負けじと強い意志を持った視線を寄越す。
全く引く様子のない彼女に深い溜め息が漏れた。


「ほら」


今にも唇をこじ開けられそうな雰囲気に麻衣の持つ箸を下げさせて、同じように返してやる。
彼女は一瞬目を見開くと、恥ずかしそうにはにかんで小さく口を開けた。


「んん…あれ? おいしい」


何事かを考えるような素振りでもごもごと口を動かしていた麻衣が、首を傾いでそう言った。
そうかと小さく返すと、これも、と彼女は小鉢を指差した。


「もっと口を開けろ」
「もっとって…あたしこれでも一応女の子なんだけど」


小鉢の中に綺麗に盛られた蓮のきんぴらを一掴み、口元で軽く揺らす。


「うるさい、無理矢理ねじ込まれるのが趣味なのか?」


長い付き合いで分かった麻衣の苦手な表情を浮かべると、彼女は軽く仰け反り頬をひくつかせた。


「うわぁ…なんかげひ、んんっ!?」
「黙れ。食事の最中くらい静かにしていられないのか?」


何事かを言いかけた麻衣の口に待機していたきんぴらを詰め込んでやる。
文句の一つでも返ってくるかと思ったが、彼女は意外にも大人しくそれを咀嚼した。


「開けろって言ったのはナ、っうぐ!」
「減らず口を叩くな。僕はお喋りな口を開けろとは一言も言ってない」


麻衣の細い喉が咀嚼したものを嚥下していくたびに、箸の先で唇をつつくようにしながら次々と食べ物を含ませてゆく。


「無理矢理入れないでよ!もうちょっとゆっく、んん!?」


いい加減怒り出しそうな雰囲気に、瞳を眇めて目元を緩めた。


「美味いか?」


そう問うと、麻衣は少しだけ頬を染めて頷く。
自分で食べるよりも?
そう訊きたかったがやめておいた。

そんなやりとりをしているうちに、麻衣はとうとう箸をテーブルに置く。
小さな口に次々と料理を運びながら、その合間にナルもゆっくりと食事を取った。
嬉しそうに身体を揺らす彼女を、ふと、まるでペットのようだと思う。
子供ではなく、これはペット。
そう考えると不思議と彼女の喜ぶように行動出来たし、自分も大いに楽しめた。

麻衣はペット。

人が自分を奮い立たせるため、鼓舞するために心の中で呟く言担ぎのようだ。
それはまるで呪文のようにナルの中に浸透して、自然と目元も緩む。
麻衣が愛情や歓喜を体中から溢れさせ、尻尾を振っている犬のようにさえ見えた。



夕食を平らげ一緒に手分けして後片付けを済ませる。
湯を張る間は何を話すでもなく毛足の長い絨毯の上に並んで座り、彼女の淹れた紅茶を飲んだ。
その後は犬の如く嫌がる彼女を引き摺って風呂に入り、頭の天辺から爪先まで余す所なく綺麗に洗う。
風呂から上がると機嫌を窺う為に昼間買っておいたアイスを与え、それを上機嫌で食べ始めた彼女を脚の間に座らせると、濡れた髪を乾かしてやった。

始終声を上げて笑う麻衣を眺めながら、やはり子供ではなくペットなのだと思った。
勿論、どちらかと言えば、の話しだけれど。


「ナル?」


散々世話を焼いたあと、久しぶりに同時にベッドへ身を沈めた。
腕の中で身動ぎした彼女を、枕に顔の半面を埋めながら見下ろす。


「疲れたでしょ?」


そう問う麻衣に軽く首を傾いだ。
そう言われれば、朝から夕方まで動いていたというのに驚くほど疲れを感じないし、少しの倦怠感もない。
心配そうな表情の麻衣をからかって遊びたいという欲求に駆られたが、麻衣の指先が何度も頬に触れたことが心地よくてやめた。


「……いや」
「そっか。ありがと」
「ああ」


たまにはこんなふうに甘やかしてやるのも良い。
しかし…


「いつまでもこうとはいかないか」
「ん?なに?」


躾に関わる、と聞こえないように小さく呟くと、麻衣は訝しげな表情で見上げてくる。
彼女の頭を抱き込むようにして誤魔化してから、その温もりにぴったりと身体を寄せた。


「麻衣、子供」
「は?なに?」
「子供」


短くそう言うと、暫しの沈黙の後、腕の中の身体が控えめに暴れだす。


「なによそれ、あたしが子供ってこと?」
「馬鹿、違う」


ひとつ苦笑を零し、大人しくなった麻衣の背を撫でる。
その耳元に英語のスペルを注ぎ込むと、難しそうに唸った麻衣が顔を上げた。


「めいくらぶ、とぅ?」
「そう」
「どーゆーいみ?」


きょとんと見上げてくる麻衣に口づける。
夫と妻としての関係を築いてからもう二年。
二人の生活にお互いが慣れるまでと、緩やかな時間を過ごしていた。
だが毎日がこんなふうでも悪くはない。
特殊な能力のある者同士の子供になるのだ、能力的にも立場的にもその将来を案じない訳ではないけれど。
それでも麻衣とならばどうにかなるような気がした。


「Try to have a baby」


――please darling.

囁くように耳の奥へと吹き込まれ、麻衣は頬を真っ赤にしてナルの胸元に爪を立てる。
そうして麻衣は、滅多にない夫の甘い誘いに小さく頷いたのだった。





end





――――――――――――――――――――――




更に誰さこれ、って感じになっちゃいました(A;´・ω・)
前半最悪だったからギャグで終わらせようと思ったのにどうしてですか!?

手直ししようと思ったけどどうにかなりそうな感じじゃなかったので投入!
うちの博士は頭のネジも緩んでれば他の部分も緩んでるようです。
なんたること!!!




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  1. 2010/08/30(月) 14:24:34|
  2. ナル×麻衣
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きみはペット(前編)




忘れていた…という訳ではない。
ただ、そういったことを重要な物事として捉えきれないだけである。
それは誰もが分かっているはずだった。

しかし、分かっていることと寛容出来る事、それが常にイコールで結び付くかといえばそうではないわけで。
彼がその日を普段と変わりなく過ごしたとして、果たして誰が彼を責められようものか?
そう問うのなら、誰もが彼女の名を挙げるだろう。


――今日一日、あたしの言うことに逆らわないこと。


激怒した彼女が突き付けた仲直りの条件は、彼が軽く眩暈を起こすほどに難解なものであった。

そう、彼にとっては。





きみはペット





「ナル。洗濯機止まったよ」

「ナル!それお風呂用のマジックリン」

「ナル、特売日だったの!早く行かなきゃなくなっちゃう!!」

「なーるー!寝ちゃダメだってば。シーツ替えたら布団取り込むんだから」

「ナル? あたしはあんたと違ってきちんと三食食べるの」

「ナル、ちゃんと拭かないとカビちゃうって。そこは乾拭き」

――ねぇ、ナル。

ナル。




「ナルってば!」


耳元でそう叫んだ麻衣の声に、思考の旅から現実へと引き戻された。
緩く首を振って耳の奥にわだかまる彼女の声音を追い出す。


「まるで僕の大安売りだ」


先ほど麻衣に引き摺られて買い出しに出掛けた。
そこで叩き売りされていた商品が販売員によってやたらと連呼されていたことを思い出し、不快感に顔をしかめる。


「ねぇナル。ちゃんと聞いてた?」


あからさまにむっとした表情の麻衣にそう問われ、深く息を吐く。

まだ読みかけの調査資料は今朝方一枚残らず彼女に取り上げられてしまった。
休日中に家で仕上げようと持ち帰った論文のバックアップも既に安原の手に渡っていると言う。
書斎には鍵が掛かっていて、中から本を持ち出すどころか休息に入ることすら叶わない。
その鍵ですら、家の中にはないのだとか。


――限界だ。


まだ湯気を立てている出来上がったばかりの夕飯を前に、椅子から立ち上がると斜向かいに座っている麻衣を見下ろした。


「もういい加減にしてくれ。僕は家政婦じゃない」


硬い声音でそう言うと、麻衣は大きな瞳を不思議そうに瞬かせる。
普段ならば気取られない程度に目元も緩むであろう。
そんな彼女の仕草にでさえ苛立ちを覚えるほど、ストレスはピークに達していた。


「なに言ってるの?」


心底分からないといった麻衣の表情に、握った拳に力を込めた。
何を言ってるも何も、そのままだろう。
鳥頭だけじゃなくとうとう耳まで悪くなったか?
そう口を突いて出そうになった言葉を、沈黙と共に飲み込む。


――自業自得でしょ?


麻衣の勝ち誇ったような声音が耳に蘇る。
それをかき消すように目を閉じると、彼女の暖かい指先が腕に触れた。


「ナルってば、鈍感すぎ」


困ったようなその声で麻衣が苦笑したのが分かった。
瞼を上げると、小さく首を傾けて悲しそうに笑う彼女と目が合う。


「そんな言い方されたら…ナルがまるであたしのこと、いつも家政婦だって思ってるみたいじゃない?」


そんなつもりで言ったんじゃない。
否定しようと口を開くが、麻衣が緩く首を振る。
分かってるからヘーキ、と、笑った彼女が普段よりも少し小さく見えた。


「あたし、ナルのこと家政婦だなんて思ってないし、そんなふうに扱ったりしてないよ?」


無理をして笑っている。
一目見ればそう分かるような儚い麻衣の微笑みに、まだ温もりが残る椅子ではなく、彼女の腕を強引に引き上げてリビングのソファへと腰を落とした。


「あたし、ナルと一緒に居たかっただけ」


その言葉に表情は動かさずとも小さく息を呑んだ。
冷静になって思い返せば、確かにそうなのかもしれない。
買い物も、掃除も、洗濯も、食事の支度も、全部二人でやったのだから。
麻衣がナルだけにやらせたことなど何一つとしてなかった。


「麻衣」


居心地悪そうに立ったままの彼女の身体を引き寄せる。
ソファに深く座り直すと膝の上に跨らせ、腕の中に閉じ込めた。


「悪かった」


肩口に顔を埋めるようにしてそう言うと、麻衣は驚きに目を見開く。
そうして小さく苦笑を零し、微動だにしないナルの髪をゆっくりと梳く。


「変なナル。ナルがオンナゴコロ、分からないのなんて、今に始まったことじゃないじゃん」


充分楽しかったからいーよ。
悪戯っぽく茶化してそう言う彼女に、思い切り顔をしかめた。


「僕は違う」
「うん、ごめんね」


ぼそりと呟くと麻衣は泣きそうに顔を歪めた。
でも麻衣は絶対に泣かないし、そんな表情をナルに見せることもない。
けれどナルは、不器用な麻衣が気取られないように時折そんな表情を隠していることを知っていた。
そしてまた麻衣も、不器用なナルが麻衣のそんな変化に気がついて心苦しく息を詰めるのを知っている。
ただ、口に出さないだけで。


「やり直すぞ」
「へ?何を?」


思い切ったように顔を上げると、琥珀色の瞳をきょとんと瞬かせた彼女が首を傾ぐ。


「全部」


短くそう言えば彼女は暫し思考の波を漂い、そしてぷっと小さく吹き出した。


「いやいや。ナルが完璧主義者だってのは嫌ってほど分かってるけどさ、誰もそこまで」
「麻衣」


目に涙を溜めるほどに笑いを堪えながら話す彼女の言葉をせき止める。
背中を丸めることで、膝に乗せてもなお少し下にある麻衣の目線に視線を合わせた。


「結婚記念日だろう。二人で祝うものだと僕に言ったのは誰だ?」


琥珀色の瞳を真っ直ぐに見詰めてそう言うと、麻衣は堪えていたはずの涙をぽろぽろと零して頷いた。





――――――――――――――――――――――




誰さこれ、って感じになっちゃいましたwww
うちのナルはただでさえナルであるのか怪しいのにまた更に遠い存在に…
といってもどういうナルなら本物なのかって言われても分からないし、私の中では主上のナルしかナルじゃないわけです。
どんな博士に出会っても残念ながらそれは全部偽物なのですね。


ただ限りなくそれに近づけることは可能なのだと思いますから、これからも頑張ります!
でも今回は書きたくて書きたくて…勢いで書いたものなので見逃してくださいませ><


後編へつづくのか!?
  1. 2010/08/01(日) 19:27:27|
  2. ナル×麻衣
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涼しいですねー。

東京は久々に雨でございます、涼しくて快適!

朝からクーラーつけなくて良いってすごい。
我が家ではウサギがバテバテなので多少の暑さでも最低ドライにしなきゃなのですよ。
夏場に仕事持ち帰った日なんかは煙草もろくに吸えなくてぶっつぶれてますー(´・ω・`)




さて…更新なのですが、私情でのろのろ以上の有り様です。
ってゆーかイベントからこっち何もアップ出来てないですが。
急遽引っ越さなければならなくなり、先日ようやく家が決まったところです。
今は仕事の合間に荷造りやら各種手続きやらに追われております><

もう少し落ち着いたらまた創作を再開したいのですが、今は新しいお話を書いてる余裕がありません。
もしかしたら近いうちにストックを一本アップ出来るかなー…ぐらいで(脱力





今日まで拍手をくださった皆様、ありがとうございます!
特にお返事する内容はなかったので、ここでまとめて失礼しますー。

以降更新のお知らせを予約投稿の時だけにするので、また多少見易くなるかと。
これからもよろしくお願い致します。
  1. 2010/07/29(木) 11:48:50|
  2. 徒然日記
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windfall 後編




「二人は嘆き悲しみ、周囲の人々の忠告に耳を貸さずにいた己を恥じ、毎夜涙を零します。恋しくて切なくて、会いたくて、食事も喉を通らない。動くことすらままならなくなった二人は、床へ伏す事が多くなっていきました」


悲しそうに瞳を伏せた彼女の瞼に触れた。
ぴくんと震えたそこへ唇を落とし、縁をなぞる様に舌を滑らせる。
いらぬことまで言ってしまった事を少し後悔した。
彼女の性格を考慮するならばもう少し簡潔に話しても良かっただろうか。


「次第に痩せ衰えていく織女と牽牛のあまりの悲しみように、天帝はある条件を出しました。互いを想い合い生涯を正しく真面目に暮らすと言うのならば、年に一度、七夕の日に会う事を許そう」


やっと瞼を上げた彼女に薄く笑みが零れる。
ほんとうに分かりやすい、優しい女性だ。
小さな身体を腕の中に閉じ込めて強く抱きしめた。
顎に触れる柔らかな髪に頬を寄せて息を吸い込むと、甘い香りが鼻を突く。


「こうして二人は年に一度、七夕の日に再会することになったのです。二人は共に居られる事、触れ合うことの大切さ知り、一年間の淋しさを心に秘め、会えない時間を惜しむ訳でもなく、七夕の夜には幸せに睦み合うと」


そう締めくくると、一気に身体の力を抜いた彼女が感嘆の声を漏らす。
満足そうなその声音に背中を摩るように撫で上げれば、身じろいだ彼女が見上げてくる。


「なんかすごい。大まかにしか知らなかったけど、なんていうか、すっごいや。人の振り見て我が振り直せ?」


あれ…ちょっと違うかなぁ、と首を傾いだ彼女に噴き出してしまう。
恋愛に夢中になり過ぎている男女には教訓になる話でもあるのだから、そうとも言えるだろう。
ただ実際そういった場合に引き離されるかそうでないかといえば、明らかに後者が多いのも事実だ。
やはり伝説は伝説、昔話で済んでしまうものであるし、だいたいどれほどの人間が七夕の本当の由来を知っているのかも怪しい。


「日本の七夕祭りは、今話した中国古来の星伝説と、乞巧奠。それに日本古来の神話である棚機女伝説が結びついた行事なのですよ」
「たなばたつめ伝説は古事記で習ったけど、きっこうでん? は知らないなぁ」


きょとんと瞳を瞬かせた彼女の頭をそっと撫でる。
心地良さそうに目を細めた彼女を愛らしいと思うのは、恋人だからというだけではない。
例外もあるかもしれないが、自分の知る限りでは、彼女の周囲に居る誰もがその愛らしい笑顔に癒されているのだ。


「乞巧はたくみを乞うこと、奠は祀るという意味で、七夕にあやかった行事の事です。織女は機織りの仕事を司る星であることから、女性が裁縫・習字に巧みになる事を祈る中国古来の風習ですよ。七夕の夜に供え物をして織女星を祀り、裁縫や習字の上達を祈願する行事の一つですね」
「おぉう!? それはなんと言うべきか…聞いた以上はやらなきゃって感じだよねぇ、苦手だし」
「わたしはどちらでも」


乾いた笑いを零す彼女の背をぽんと叩く。
裁縫や習字が苦手でも特に問題はないように思うが、彼女自身が上達を願うのならばそうしても良いと思う。
現実はそう甘くもないが、願い事をする、ということが女性にとって神聖なものであることに違いはないだろう。
娯楽との分別が難しいところではあるが。


「織女はこと座のベガ、牽牛はわし座のアルタイルの漢名で、和名では織姫・彦星と言います。此方の方が谷山さんには馴染み深い名でしょう?」
「そうだねぇ。織女とか牽牛とか、初めて聞いたし」


途端に戻った話題に首を傾ぎながらも、彼女が頷く。
英名や和名は耳にすることがあっても、漢名は何かきっかけがなければそうそう覚えるものでもないだろう。
自分自身、中国の生まれでなければ知らなかったはずである。


「実はこの星伝説には天文学的な裏付けもあるのですよ。きっとあなた好みの話しです」


そう言うと、彼女は再び瞳を煌めかせ、先を乞うように見上げてくる。
愛らしいことこの上ないが、未だ雨の降り続く空をちらりと見やり首を振った。
外気に晒された肌は時期的に冷える事はないが、じっとりと湿気が張りついて良い気分でもない。
こうして触れ合うことはここでなくても出来るのだから。


「今日はもう遅い。雨の話も含めて明日にでもしてあげましょう」
「えぇーっ!ひどい、そんなこと言われたら気になるじゃんか!」


ぷくっと頬を膨らませた彼女に、右腕に留めた時計を示す。
時刻はもう一時を回っていて、語り合う時間はとうに過ぎている。
後はベッドで、と言いたいところだが、まだやるべきことも残っているだろう。
それはきっと、彼女が楽しみにしていた筈の大切な作業だ。



「願い事は良いのですか? わたしを待っていてくれたのでしょう?」
「それはそうだけどー。なんかもやもやで気持ち悪いよう」


むっと眉を寄せる彼女と唇を触れ合わせ、子供を抱くような体制で立ち上がる。
ハーフパンツに守られた腿が晒されることはなかったが、恥じらった彼女は悲鳴を上げて首筋にしがみついてきた。
下履きを脱いで肘でテラスの窓を閉めてから、彼女をフローリングにゆっくりと下ろす。
彼女の後を追っていた先程は気がつかなかったが、ふと見ればガラステーブルの上に短冊が綺麗に並べられていた。


「リンさんの願いごとは?」


毛足の長い絨毯の上にぺたりと腰を下ろした彼女が振り返る。
切り替えの早い彼女は早速ペンをとって赤い短冊を一枚引き寄せた。
その隣りに腰を下ろし、テーブルに片肘をついて彼女を見詰める。


「あなたはなんと?」
「あたしが先に訊いたんだから、教えてくれなきゃ教えないー」


ぷいっと視線を逸らせた彼女に苦笑が零れる。
いくつになってもこんな所は変わらないのだなと思った。
何があっても変わらない、そこが彼女の良いところの一つであるのだが。


「そうですね、わたしの願いは」


そこで言葉を切って、ついた肘の掌に頬を乗せる。
自分の願いは何であろう。
思いつくものはどれもありきたりで平凡で、けれどかけがえのないものだ。
その全てを願うのは欲張りな気もするが、叶うのならばそうしたい。
けれどその中でも一番強く願うのは、最期の時まで幸せであること。

思考を巡らせていると、待ちきれないとばかりに彼女が右腕を取って揺すった。
ついた肘をテーブルから離して彼女の頬に自分のそれを擦りつける。
暖かい滑らかな頬は、ぎゅっと押し付けるようにして擦るとふわんとはじき返してくる。
その温もりは、彼女が生きている証し。
自分の傍らに存在しているという証明だ。


「あなたが私よりも生き永らえること」
「リンさんっ!」


声を荒げ瞬時に強張った彼女の肩を回した腕で包み、ゆるりと首を振る。
怒っているのだろう、抗うように身体を捩らせた彼女を強引に引き寄せた。


「…と、言いたいところですが。それでは心配で逝けません」


苦笑と共にそう零せば、怒りをそのままに彼女が小さく唸った。
それほどまでに想われているのかと思うと、声を上げて笑いだしたくなる。
彼女と一緒にいると毎日のように思うのだ、幸せとはこういうものかと。
背中を丸めて彼女の頬に口づける。
耳元に唇を寄せて、奥底に吹き込むように願いを告げる。
叶うことならば、私の願いは……



――永久の眠りにつく時は、あなたと共に。




end




  1. 2010/07/07(水) 00:28:00|
  2. リン×麻衣
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windfall 前編




地下駐車場に停めた車を降り、キーロック式のエレベーターに乗り込む。
早く帰ると言っておきながら、今夜は随分と遅くなってしまった。
連絡の一つも入れられたら良かったのだが、同時に事務所を出た上司が同乗した手前、結局マンションに辿り着くまで連絡出来ず仕舞いである。
もしかしたらもう帰ってしまっているかも知れない。

溜め息を一つ零し、目当ての階に辿り着いたエレベーターから足早に部屋へ向かう。
通路側に窓はないため部屋の様子は伺えない。
深夜ということもあり、カードキーを差し込み静かに扉を開いた。

足元を照らす仄かなオレンジの明かりに頬が緩む。
玄関先には小さな女性らしいサンダル。
廊下の先に見えるリビングの磨りガラスのドアからは、煌々と明かりが漏れていた。

彼女に手間を掛けさせないよう脱いだ革靴を揃えていると、背後でリビングのドアが開く音がする。
振り返れば、ほわんと微笑んだ愛しい彼女。


「おかえりなさい、リンさん」
「ただいま帰りました。遅くなってすみません」
「大丈夫だよ、今やっと終わったところなの」


終わったと言われても心当たりは何もなく、首を傾ぐと裸足の彼女が飛びつくように腰元に抱きついてきた。
それを軽く抱きしめてやり、見上げる額にキスを一つ。
手を引かれて歩き出す。


「今日、何の日か知ってる?」
「日付を跨いだ今日ですか?」
「そそ、七月七日」


にこにこと笑みを浮かべながら問いかける彼女に小さく頷く。
用意していたというのは短冊か何かだろうか?
しかし後ろ手にドアを閉めたリビングには特に何も見当たらない。
七夕ですね、と頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうにはにかんでテラスへと続く窓を指差した。


「笹の葉サラサラ、おっきいの!一緒に見よう?」


繋いだ手がするりと抜けて、彼女はテラスへと姿を消した。
離れた温もりが恋しくて、ジャケットをソファへ放るとすぐさまその後ろを追いかける。
開け放たれた窓からは湿気交じりのぬるりとした風が部屋へ流れ込み、レースのカーテンをひらひらと揺らす。


「じゃーん!」


窓に手を掛けて外を覗き込むと、得意気な彼女がテラスの端を指差した。
視線を向ければ彼女の身長など優に超した笹竹がテーブルの向こうに飾られていて、思わず息を漏らす。


「これは…すごいですね」
「でしょう? ぼーさんにおねだりしちゃった!」
「彼がここまで?」
「ううん。流石に運べないから宅配で。そんで、真砂子と綾子と、頑張って括ったんだけど…結構見れるもんでしょう」


得意気ににんまりと笑う彼女の腰を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
裸足のままテラスに下りた彼女を両腕に抱え上げ、下履きを履いて外に出る。


「七夕飾りが天の川へ流れ着くと、その者の切なる願いは永久になる」
「願いが叶うってこと?」
「そうです。七夕の翌日、短冊を海や川へ流すんですよ」


暫く忘れていた一説を紡ぐと、彼女ことんと首を傾いだ。
笹竹に短冊を飾り願い事を書くことで終わるのが一般の七夕なのだろう。
彼女もそれを思い描いていたに違いない。
地域によっては七夕送りに由来するねぶたや竿燈祭りもあるが、これは少々時期もずれていて、地元の人間ですら知らずに過ごしている者も多い。


「禊と一緒です。雨を清めの水として、短冊が流れ消えていくほどの大雨が降ると良い。これぐらいの雨ではいけませんね」
「でも、雨が降ると織姫と彦星が会えなっちゃうんでしょ?」


テーブルを囲ううちの一つの椅子を引いて腰を下ろした。
抱えた彼女に膝の上を跨がせ、向き合うように抱え直す。
片手で背中を支え、ふっくらとした頬に触れる。
温かく柔らかな手触りに惹かれるように反対の頬に口づけた。


「日本ではそう伝えられているのですか?」
「うーん、あたしが聞いたのはそんなんだったけど」
「では、昔話をしてあげましょう」


そう言うと、彼女は大きな瞳を瞬かせて嬉しそうに頷いた。
好奇心旺盛な彼女は自分の知らない事や物などに大いに興味を示す。
それを危なっかしいと感じる時もしばしばあるが、吸収力の早さや順応力には何度も驚かされた。
さて、自分は彼女の気を引くに値する引き出しを持ち合わせているだろうか。


「それは中国の後漢時代に遡った話しです」


その語り出しに、彼女は真剣な表情で一度頷いた。
真面目に話しを聞く体制である。
なかなかにちょっかいを掛けにくくなり、苦笑が零れた。
両手を彼女の腰に回して、小さな身体が転がらないよう指を組む。


「とある夫婦が暮らしていました。天帝の娘の名は織女(しゅくじょ)、牛飼いの名は牽牛(けんぎゅう)。二人は周囲が羨むほどの仲睦まじい夫婦でした」


しとしとと雨の降る闇の中、微かに彼女の頬が赤く染まる。
憧れを抱く夫婦の在り方なのだろう、嬉しそうにはにかんだ彼女の鼻先にキスをした。
結末は違えど、自分もそうありたいと願っているのだと想いを込めて。


「しかし互いが互いに夢中になり過ぎた為に、そう時を経ず仕事すら手につかなくなってしまったのです。余りの暴落ぶりに二人はとうとう天帝の怒りを買い、天の川を隔てて東と西に引き裂かれてしまいました」


感情が分かりやすい彼女がぐにゃりと顔を歪める。
しかしリンの奥底には、同意できる部分があるのだ。
出来る事ならば一日を、一年を、一生を、彼女と二人きりでいられたら。
何処かに閉じ込め自分だけしか見えないようにしてしまえたら、どんなに幸福だろうと思う。
彼女に触れ、その甘い声音を聴き、豊かな表情を飽きることなく見詰めて。
そうして一生を過ごせるという絶対的な確約を提示されたら、自分はどんな禁忌でも犯すだろう。
それは決して彼女には言えないけれど。





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  1. 2010/07/07(水) 00:26:54|
  2. リン×麻衣
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