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孤高の花2




「ねぇ、焼けるよ?」


眩しそうに目を眇めている彼を覗き込むと、頭が肩口にストンと降りてくる。
首筋に彼の艶やかな黒髪があたりくすぐったい。
小さく笑い声を上げると、麻衣の片腕を捉えた彼がおもむろに顔を上げた…といっても、日差しから目元を守るように微かに俯いてはいるのだが。


「お前は少し焼けたな」


すぅとなぞるように二の腕から指先まで掌を滑らせながら、相変わらず気持ちの読めない声音で彼が呟く。
灼熱の日差しが降り注ぐような真夏でもないけれど、毎日学校とバイト先の往復で、小麦色にはほど遠いが確かに少し焼けたと思う。


「いや?」


そのまま指先を弄んでいた彼にそう問いかけると、彼は面白くなさそうに視線を逸らせた。


「別に。色の白い女が好きなわけじゃない」


何の気なしに聞いただけなのだが、思わぬ彼の返答に頬が緩む。
それだけ言うと関心をなくしたように麻衣の傍から離れていく彼を、無意識に追いかけていた。
この数年の付き合いのお陰か、彼が照れているだけだと分かってしまったから。


「ね、じゃあさ。どういう人が好みなわけ」


リビングのソファに腰掛けたナルの横、すぐ隣りに座りたいのはやまやまだったが、彼の表情がよく見えるように離れた場所に四つん這いになり、無駄に広いソファの端から彼を窺う。
そんな麻衣を横目に見た彼は深く溜め息を吐いて、背凭れにゆっくりと身を預けると、長い脚と腕を組んで何かを考え込むように瞳を眇めた。

まさか真面目に答えてくれる気なのだろうか。
駄目で元々、そんな気持ちで問い掛けたが、思わぬ収穫がありそうな予感に笑いを噛み殺す。


「うん?」


動きのない彼ににじり寄ろうと右手を一つ前に踏み出したところで、彼がふと首を傾げてテーブルを覗き込んだ。
つられて視線を向けると、洗濯機が止まるまでと広げていた絵本が目に留まる。
しなやかな身体がぐっと伸ばした彼は意外にもそれを手に取り、数ページもない絵本をパラパラとめくってゆく。

本の虫は絵本も資料も論文も、文字や数字、本という本全てに興味を示すものであろうか。
そんなことを考えていると、ほんの数分の間の後、彼はパタンと絵本を閉じて窺うような視線を寄こす。


「前に図書館で読んだんだけど、たまたま本屋で見かけて買ったんだ。これが良い話しでさ、すっごい泣けんの」


うんうん、と力強く頷くと、彼の口元が緩やかな弧を描いた。
意地の悪そうな笑みに反射的に身体を起して仰け反ると、ぺたりと音を立ててナルの右手が革張りのソファに沈む。


「本を読む、音楽を聴く、映画やドラマを観る、そして泣く。そうすると何がしかの感情を持て余している人間は、多少なりとも気分が落ち着く。これは科学的にも証明されていることだ」


絵本をテーブルに置いてゆっくり言葉を紡ぐ彼の口元は、未だ笑みの形を崩さない。

「それぐらいは知っているだろう」

囁くように甘やかにそう言った彼は、ゆらりと身体を傾けた。
先日の実にタイムリーな講義を思い出す。
もう老婆の域に達しようとしている教授はとても優しく思慮深く、生徒一人一人への愛情に溢れていて、麻衣はとても慕っていた。
しかしそんな教授の講義ですら、彼の柔らかく心のうちに入り込んでくるような、刻みつけるようなそれとはほど遠い。

呆然と彼を見つめる。
流れるような声音と共に、右手に続き右足、左手、左足と、順にソファに乗り上げた彼は、獲物を見付けた肉食獣のように黒曜石の瞳を煌めかせてうっそりと笑う。
ゾクリと肌が泡立った。


「だがお前の場合は逆。泣きたくなるとそういう行為に走る」


獣のような歩行でじりじりと距離を詰めてくる彼に息を飲んだ。
先ほどまで自分が目論んでいたその行為は、かなりの恐怖心を伴って自らに襲いかかる。
麻衣の深層心理になど遠慮も何もあったものではない彼の剥き出しの言葉は、今にも断罪の剣を振り落とさんとばかりの低く地を這うような声音で紡がれた。
いつもの数倍鈍くなった思考では、しまったと思う間もなく、にじり寄った彼の端正な顔を間近に引き攣った笑いしか出てこない。
そのまま伸びあがる彼の鼻先が顎に触れる直前、スッと横に逸れたかと思うと、耳元を掠れた声がくすぐった。


「どういう心理状況か教えてやろうか」


麻衣の表情を窺うように再び目前へと再び舞い戻った彼が、実に愉快そうに眉を吊り上げたことに小さく悲鳴が漏れる。
ブンブンと音がなる程首を振ると目眩に襲われ一瞬視界が歪み、身体がゆらりと揺れた。
貧血のような感覚に陥り、即座に手を伸ばしてくれた彼に凭れこむ。


「馬鹿。大丈夫か」


後頭部を大きな掌が滑り、小さく頷く。
心地良い陶酔感に薄っすらと瞳を開けると、非力そうな彼の白い指先が肩をしっかりと支えていてくれるのが目に入った。
心理学を専攻しているのだ、そんなことは言われなくても分かっているし、彼が何故急にそんな事を言い出したのかも分からなくはない。
予想が当たっていればの話しではあるが。
けれど思い通りになってやるつもりもない。
ここのところ一緒に居てもそうでないようで、本当に寂しかったのだ。
悪戯にでもこうして言葉を掛けてくれることがすごく嬉しい。
でもそれは彼を面白がらせるだけだと分かっているから口にしない。
この口ぶりではどうせ解っているのだろうが、自分が彼の機嫌取りに付き合ういわれもない。

せっかく掴んだ尻尾がスルスルと抜けていくような感覚に脱力した。
普段の仕返しにからかって遊んでやろう、という魂胆はものの見事に崩れ去ってしまったのだから。





  1. 2010/07/06(火) 03:57:46|
  2. ナル×麻衣
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