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孤高の花3

side-noll



「ね、じゃあさ。どういう人が好みなわけ」

目眩がした。
お前は馬鹿か、と、思わず口を突いて出そうになったが、寸でのところで飲みこむことに成功する。
機嫌が浮上したと思ったら今度は一体何を言い出すのか。
横目で窺った彼女は四つん這いになり、はちみつを零したような瞳を煌めかせながら此方を見ていて、深いため息が零れた。

実に楽しそうな彼女は今か今かとナルの言葉を待っているようだった。
ここのところ構ってやれなかったのが気掛かりで書斎から出てきたのだから、ここで無碍にし彼女の機嫌を損ねればそれも無駄な行動となるだろう。
良心などというくだらないものが自分に存在するかは怪しいが、彼女とそれに関わる者たちに関してはほんの欠片でもあるのかもしれない。
故に先日イギリスで発表された最新の論文を放り出してまでこうしているのだから。

彼女に関わってから、少し前までは考えられないようなことが次々と自分の身に降りかかるのは正直面白くなかった。
しかし、それを間近で見ている彼女が楽しそうに笑うのだから、それも悪くはないと思う。


――が、それとこれとは別だ。


自分の失言で陥ったこの状況に甘んじているつもりもない。

背凭れに身を預け、足と腕を組んで視線を上げると、ガラステーブルの端に見覚えのある絵本が目に入った。
先日麻衣が購入してきたもので、内容も確認済みである。
こんなものを読んで何が面白いものか甚だ疑問ではあったが、読んでみるとそれは麻衣の琴線に大いに触れそうな内容であった。

他人の忠告を受け入れず己の感情に忠実に動き回り、けれど周囲への配慮や気遣いに苦心しながらナルと共に歩むことを決めた彼女にとって、それはそれは大切なことが描かれているのだ。
こんな絵本ひとつに振り回されるなどくだらない。
しかし彼女がこれを読んでどう思うかぐらいは分かっているつもりだ。


「うん?」


さも今見付けたとばかりに首を傾げて絵本を覗き込むと、それを手に取った。
彼女から見て不自然にならぬよう細心の注意を払いながら、読み飛ばさないようにきっちりと絵本を捲ってゆく。
その名の通り絵ばかりの、ほんの数ページしかない絵本はものの数分で読み終わり、音を立ててそれ閉じると彼女を見つめた。
単純な彼女はナルがそれに興味を持ったことが嬉しかったのか、微かに目元を緩めて。


「前に図書館で読んだの。たまたま本屋で見かけて買ったんだけど、これが良い話しでさ、すっごい泣けんの」


うんうん、と力強く頷く彼女の顔が、一瞬にして凍りつく。
思い通りの展開に口元を綻ばせてしまったようで、一瞬遅れてそれに気がついたが、彼女の強張った表情にまぁ良いかと笑みを一層深くした。
身体を起こして仰け反る彼女に近付こうと、革張りのソファに右手をついて体重をかけた。


「本を読む、音楽を聴く、映画やドラマを観る、そして泣く。そうすると何がしかの感情を持て余している人間は、多少なりとも気分が落ち着く。これは科学的にも証明されていることだ」


以前彼女が好きだと言っていた己の声を駆使して柔らかく紡ぐ。
子供に言い聞かせるように、それぐらいは知っているだろう、と、僅かに目を細めながら空いている左手で絵本をテーブルに置いた。
右足、左手、左足、順にソファに乗り上げ彼女と視線を合わせると、止めとばかりにうっそりと笑う。


「だがお前の場合は逆。泣きたくなるとそういう行為に走る」


そのままゆっくりと距離を詰めていけば、小さく息を飲んだ彼女は仰け反った体制のまま、無意識にだろう両手をぎゅっと握り合わせた。



単純な彼女の思考や行動など考えずともよく分かる。
随分長引いた調査がつい先日終わり、溜まりに溜まった資料やテープ・音声などを見直しついでに確認しながら報告書をまとめ始めると、少しばかり時間が掛かった。
その分納得のいく結果が出たことでその作業は苦にもならずに終わったのだが、報告書を提出すると同時に本国からの何十回にわたる電話やファックスに予定と違う行動をとらされ続けた挙句、とうとう訪れた我慢の限界に電話口で文句を言ってやったら、まどかが直々に乗り込んできてしまったのだ。

しかし予想外な事にそのまどかが持参した最新の論文が随分と興味深いものであった上に、著者である教授から数回にわたり本部を通してこれまた興味深い内容の文をもらい、やり取りをしていくうちに日が経っていった。
それが彼女を孤独へと陥れていることも分かってはいたのだ。
だがそれに関しては此方の言い分もある。
ただ放置していたという訳でもない。

会話自体は少なかったものの、リビングで眠りこけている彼女をベッドに運んでいたのは自分だし、彼女が覚醒するまでの間はずっと隣についてもいた。
就寝や起床の挨拶だって一日たりとも欠かしたことはなかったし、彼女の作った手料理がどんなに大業な味でも、自分の為にと必死で本を読み漁っていた彼女を目にしてからは残したことだってない。
ただ、触れていたのも言葉を掛けていたのも心を砕いていたのも、彼女が眠ってからや不在の時だったというだけで、追い込まれた彼女がそれに気がつかなかったのだから。



引き攣った笑いを零す彼女を目前に伸びあがると、口づけたいという欲求を抑え込んでそのまま耳元に唇を寄せる。


「どういう心理状況か教えてやろうか」


ふわりと香る彼女の香りを惜しみながら、麻衣の表情を窺うべくその場に腰を落としフローリングの床に足を下ろす。
眉を吊り上げると、呆けていた彼女はそのふっくらとした唇から小さく悲鳴を上げた。
その一瞬で我に返ったらしい彼女はふるふると首を振り、その反動で目眩を起こし身体を揺らせる。

彼女に関わっているとよく引き起こされる予想外の出来事。
そのひとつに苦笑しながら手を伸ばすと、ぐらりと揺れた頭部を抑え込んだ。


「馬鹿。大丈夫か」


頷く彼女の肩を左手で支え、後頭部をゆっくりと撫でてやる。
柔らかい髪が掌に心地良い。

そのうちに縋りつくように背中に回された小さな手がぎゅっとシャツを掴むのを感じ、思い通りの展開に、ナルはひっそりとほくそ笑んだ。





  1. 2010/07/06(火) 04:05:37|
  2. ナル×麻衣
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