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孤高の花4





「お前は本当に馬鹿だ」


甘い雰囲気を打ち消すように言い放つと、麻衣はこめかみをぴくんと引き攣らせた。
けれど言葉とは裏腹に、後頭部を撫でる手は休めない。
そうしていれば彼女が自分の腕の中から逃げ出さないことを知っているから。


「僕がお前の気持ちを無視したことがあったか?」
「はぁ?あるでしょーが、数えてないけど、そりゃあいっぱい」


がばっと勢いよく顔を上げ、間髪入れずに反論する彼女の目元に、今度こそ欲求に逆らわずそっと唇を落とした。
数回繰り返すと彼女はくすぐったそうに身を捩り、背中に回していた腕を解いて胸元をそっと押し返してくる。
不可解な行動に多少なりとも気分を害され、彼女の狭い額をがしっと掴んでシニカルな笑みを浮かべた。
彼女がこの笑みを好まないのは知っているが、そんなことはどうでも良いことだ。


「ほう、それは気がつかなかったな」


敢えて僅かに目を見開いてそう言うと、ちょっと!あんたねぇ、と、額を掴んでいる掌をぐいと押しのけて、彼女が不満そうに声を荒げた。
しかしそれを遮るように掌を拘束している彼女の小さな手を口元に運ぶと、眼球が零れて落ちるのではと思うほどに目を剥いた彼女と視線がぶつかる。
そのまま彼女が何かを言いださないうちに言葉を紡いだ。


「言い代えよう、僕がお前の言葉に全く耳を貸さなかったことは?」
「それはっ…ない、と、思う…たぶん」


歯切れの悪い言葉に眉間に力が籠る。
びくっと震えた彼女が身を引こうとするのを、捉えた指先をぐっと引き寄せることで防いだ。

彼女にはこれだけでは不十分だ、というのは想定内ではあるけれど、どうして肝心なところでこうもネガティブなのだろうか。
自分がこれほどに譲歩してやらねばならない人間が、彼女以外の誰だというのであろう。
それが分からないのならば節穴という他ない。

彼女はそう感じているのかもしれないが、あまりに馬鹿馬鹿しくて却下することはあっても彼女の言葉を無視したことなどないし、その場では敢えて流したり聞かなかったことにしたとしても、彼女の言葉を聞き入れなかったことだって一度たりともない。

そう、彼女だけが気がつかないのであって。

あまりの素晴らしい節穴ぶりにともすれば頭痛がしてきそうになるこめかみを指先で押さえる。


「では、ここから出ていけといったことは?」
「え、と…ない? と、思うけど」


暫し考えるように視線を浮かして答えた彼女に、何故疑問形なんだと問い詰めたい衝動を堪えて息を吐く。
これほど辛抱強く耐えねばならない理由がどこにあるんだ。
それともここまで言えばさすがの麻衣でも分かるだろうという考えがよほど甘かったのだろうか。


「お前を必要ないといったことは?」
「あー…ないんじゃ、ないかな」
「はっきりしろ!」
「だってそんなの分んないじゃん!寝てる間に言われてるかもしんないし、言ったけどあたしが気付かなかっただけとかもあるかもしんないし!!」


困ったように眉尻を下げた彼女に、今度こそ怒りが沸き上がる。
自分はこんなにも短気だったろうかとふとした疑問が沸くが、それもこの手のかかる女のせいだと一瞬で納得した。
寝てる間になどと、どういう思考回路を持てばそんなことが吐けるというのか。


「もっと自信を持ったらどうだ。僕は好きでもない女を部屋に上げるようなことはしないし、ましてや住ませるなんてありえない」
「いひゃっ!はなひて!!」


いくら鳥頭でもそれぐらいは判るだろう、と、イラつき混じりに柔らかく頬を抓り上げると抗議の声が上がった。
しかしそれも無視してきゅっと力を込める。


「構って欲しいのならそう言えば良いだろう」
「言えるか!」


間髪いれずの返答に深い溜め息が漏れる。
バタバタと暴れ出した彼女の頬から、そして握ったままでいた小さな手から両手を離し彼女の身体をそのまま腕に閉じ込めるが、非力ではあるものの、肘や拳が身体の至るところにぶつかり流石に少しばかり痛かった。

いつまでもこうしていては埒が明かない。
抑え込むように更に腕に力を込めると、ぱったりと大人しくなった彼女に小さく息を吐く。


「一人で拗ねるな」


朝食をとってそれきり、通常休日は例え喋らなくても煩いぐらいにまわりを行ったり来たりしている彼女が、何故かことんと静かになった。
今朝までに兆候はあったものの、いつもの彼女からはこんなふうに黙って黙々と家事をやっていられるとは思えなくて驚いた。
書斎の窓から窺えるベランダで彼女が溜め息を吐くのを何度も見掛け、さすがに仕事以外の用件で放っておくのも忍びなくなってしまったのだ。
夕方までにはひと段落させその後何か彼女が喜びそうなことをしてやろうとは思っていたが、ベランダを忙しなく行ったり来たりする暗い顔の彼女に気を取られ、活字も同じように目で追うばかりで何も頭に入らない。


「お前は隠すのが下手だから言わなくても分かる。だが聞かれなければ、言われなければ、言葉や行動にするのが難しいことだってある」


それぐらい判れ、と、強請るように言うと、彼女は小さく噴き出した。


「ナルって難しいね」
「単純なウサギやクマとは違う。何かあるならその都度言え」


そう絵本になぞらえて彼女を覗き込むと、目尻に少し涙を溜めた彼女は笑いながら、はいはーい、と頷いた。
それを見るや、この数週間自分には何が足りなかったのかがなんとなく頭を掠めた。
眠っている彼女に触れても言葉を掛けても、何か足りないと思うばかりでそれが何だったのか分からなかった。


「余計な事を考えている暇があるならちゃんと僕を見ていろ」


額を隠す前髪を掃けてそこに口づけると、彼女はふわりと微笑んだ。
中途半端に脳内に燻っていた考えが確信に変わる。
事務所やリビングなどで笑う彼女は目にしても、それは自分に向けられたものではなく、自分以外の人間や動物、情けないことに果てはテレビなぞに向けられたものであった。
自分は彼女に飢えていたのだ、彼女の笑顔に。
怒らせるのも泣かせるのも恥じらわせるのも、彼女が相手であればあるほどに自分の心が浮き立つのを感じる。
しかし笑顔だけは、麻衣のものでなければならないのだ。


「もう仕事、良いの?」


ぼうっと彼女の顔を眺めていると、あたしもうヘーキだよ、などと説得力のない困ったような表情で言われゆっくりと首を振った。
仕事と言えば仕事なのだが、違うと言えば全く違う。
しかしそんな事をわざわざ言って浮上した麻衣を突き落とさなくて良いかと思う。
彼女がそう勘違いをしていたからこそここまで均衡がもっていたのだし、その勘違いの甲斐があり自分も彼女とゆっくり話すきっかけになったのだから。


「今日はもういい、夕方には切り上げるつもりだった。それより、僕に言うことがあるんじゃないか?」


膝の上に抱えるように抱き直すと、彼女はきょとんと首を傾ぐ。
これには心底呆れたような顔になってしまい、そんなナルの顔を見上げると、麻衣は慌てたように視線を彷徨わせて一生懸命何かを考えているようだった。


「お前は隠し事が趣味なのか」
「ちがっ!なんのことだかわかんないってば!!」


にやりと笑うと両手で肩を掴まれ、必死に揺すられる。
これはこれで良いか、と、彼女の脇と膝裏に腕を差し込んで抱き上げれば、麻衣はバランスを崩して首筋にしがみ付いてきた。


「今日はお前の誕生日だろう、そんなことも覚えていないのか」
「うそっ…覚えてたの!?」


彼女の小さな身体を抱えたままリビングを颯爽と抜けてゆく。
呆けたように見上げてくる彼女に少しばかり口の端を上げてやると、途端に強張る身体。
こんな少々の表情や感情の変化についてこれるのは、後にも先にも彼女だけだ。
ぎゅっと力を込めて小さな身体を更に引き寄せた。


「ペナルティ」
「なんのだよ!」


心底不満そうに声を張り上げる彼女を、辿り着いた寝室のベッドに遠慮なく放り投げる。
二人で眠るのにも余るほどのそのベッドは、彼女の小さな身体を数回リバウンドさせると小さな埃を舞い上げた。
それは強い陽射しに照らされて煌々と空中を漂う。


「誕生日を僕と一緒に過ごしたいと正直に言えなかった罰」
「うっそ!誕生日なのにひどい!ってゆーか、覚えてたんならプレゼントは!?」


ベッドに沈んだ身体を慌てて起こした麻衣を小突き再びそこへ沈ませると、両手を胸の前でぐっと握り見上げてくる彼女にゆっくりと覆いかぶさる。
ちゃんと用意してある、と小さく甘やかに耳元で囁くと、頬を染めた彼女はパッと表情を綻ばせた。

本当に分かりやすい。

口には出さずに苦笑すると、キラキラと瞳を輝かせた麻衣が小さく首を傾げた。
早くくれとでも言わんばかりのその表情に、彼女が好きなとびきりの頬笑みをくれてやる。


「麻衣の欲しいものは僕。充分だろう?」


数瞬の間の後、固まっていた麻衣の耳を劈くような哀れな悲鳴は、寝室に響き渡る前にナルの口腔へと吸い込まれていった。





  1. 2010/07/06(火) 04:09:05|
  2. ナル×麻衣
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