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恋煩い7

side-mai



やっと辿り着いたその場所で、目許を覆われていたハンカチを解く。
促されて目を開けると、視界いっぱいに広がる紫の花畑。


「うわぁ!すっごい綺麗!」


興奮が勝り人前にも関わらず大声を張り上げて注目を浴び、注がれた視線に一瞬全身が強張った。
しかし彼はそんなことを気にした様子もなく、背後から肩を支えてくれていた手を頭へと移しゆっくりと撫でてくれる。
斜め上を見上げると薄く微笑んだ彼にいつからか見下ろされていて、一瞬にして頬に熱が上がった。
羞恥心と高揚感で花壇の方へ駆け出したい気持ちを抑え、ゆっくりと花畑を見回す。


「ラン科の花で、シラン、というそうですよ」
「シラン?」


鸚鵡返しに首を傾ぐと、彼はこくりと頷いた。
ランに限らず草花に色々な種類があることは知っているけれど、初めて聞く名前だ。
リンの手が離れたのを見計らい駆け足で花壇に近付いてしゃがみ込む。
近くでじっくり見ると、少々下向きの小さな花が所狭しと溢れていて自然と笑顔が零れた。
綺麗だとかすごいだとか、そんな普通の賛美の言葉しか出てこない。
そっと顔を近づけてみれば、ふわりと柔らかな芳香が鼻を掠めた。
そんなことをしていると、目を閉じているうちに聞きなれてしまったリンの靴音が背後に近付いてくる。
花言葉は――と、小さく紡ぐ彼に顔を上げた。
立ち上がって振り返るとリンがすぐ目の前に立っていて、すこし驚いた。


「互いに忘れないように」


今日の事を言っているのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かんだけれど、そう訊くのも躊躇われた。
いや、訊けなかったというのが正しいのかもしれない。
何故なら、優しく目許を緩めたリンの表情に見惚れてしまったから。
初めて見たそれに、小さく開いた唇から小さく息を吸い込む。
呆然と見上げていると、目線を合わせるように腰を折ったリンの背後でカサリと小さく音が鳴る。
それが何かを確認するような余裕もなく、すぐ目前に迫ったリンの顔から逃れるように少しだけ後ずさった。


「最初は誕生石を贈ろうと思っていたんです。ですが暫く考えて、あまり高価なものは受け取ってもらえないんじゃないかと思って」

苦笑した彼に、何がなんだか分からなかったけれどその通りである事は間違いないので、躊躇いがちに小さく頷く。

――贈る? あたしに?

固まった思考で辿り着いた答えに一気に頬に熱が上がった。
いつとも知れない会話の中でふと口にした誕生日を覚えていてくれた。
だから彼は、今日この日を選んでくれたのだろうか。
嬉しい、恥ずかしい、大きな声で力の限り叫び出してしまいたい。
あたしはこんなふうに幸せでいいの?
思わず泣きそうになってぎゅっと目を閉じる。


「ハイブリッドティーローズの、サンシルクという薔薇です。大まかにで申し訳ないのですが、黄色いバラも誕生花だと聞いたので」


その言葉に瞼を上げれば、黄色い薔薇の花束を抱えたリンが困ったように微笑む。
スッと自然な動作で差し出されたそれを受け取ると、微かに残ったリンの温もりとその花束の重さに涙が零れた。
大輪の薔薇に埋もれるようにしゃくり上げると、長い指先が頬を伝った涙の軌跡を優しく拭ってくれる。
何度も何度も頬に触れるリンの熱にゆっくりと目を閉じた。


「本来なら六月七日の誕生花はアサギリソウなのですが、すごく増えると聞いたので返って迷惑になるかと。花を楽しむものでもないようでしたので」


大きな掌が腰と後頭部に回って、花を押し潰さないようやんわりと引き寄せられる。
薔薇の強い香りに混じって、リンの唇が額に届く。
一度だけ触れて離れていく唇に引き摺られるように目を開けて彼を仰いだ。
息が混じり合う程の距離で見詰められたけれど、深い色の瞳を見れば不思議と羞恥は吹き飛んでしまった。


「誕生日おめでとうございます」
「うん、ありがとう」


涙を堪えて発すれば、それはそれはすごい鼻声だった。
一瞬面喰い、顔を見合わせて笑い合う。
髪を梳くように撫でるリンの掌に頭を乗せて首を反らせ、珍しく声を上げて笑う彼に微笑みかける。
あの日、彼と会えて本当に良かった。
会う機会なんていくらでもあったのだけれど、あの日だったから良かった。
きっとこの先も一緒にいられるのだろうと思ったら、幸せすぎてどうにかなってしまいそうなほど嬉しい。
ゆっくりと近づいてくる彼の顔に再び目を閉じる。

唇に触れる柔らかでしっとりと濡れた温もり。
安心できて、色気すら感じるほどの男の香り。
骨張った力強い大きな手に、迷いなく自分を導く長い脚。
すっぽりと包みこんでくれる見上げるほどの体躯。
流れるような指先によく馴染む細い髪。
今は自分だけを見てくれる漆黒の瞳。

全てが自分のものだなどとおこがましいことは思わない。
けれど、自分の全てを彼に捧げても良いと心から思っているから。
だからきっと彼の全ても自分のものなのだ。

ふと目を開けた瞬間彼の瞳には自分がめいっぱいに映っていて、自分の瞳もそうであれるようにじっと見つめ返した。
啄ばむように数回触れた唇と共に、彼の温もり全てが離れて行く。
それが寂しくて、花束を片手に抱え直すと彼の手に指を絡ませる。


「もう目隠し、しなくても良いんだよね?」


握り返してくれた手が嬉しくて、悪戯に瞳を眇めてそう問う。
彼は小さく笑って頷いて、そうしてゆっくりと歩き出した。
さっきまでは見えなかった周囲の景色が、今の自分の全てだ。
目に映る全てがいつも以上に美しくて、儚くて。
これからどんなに時が経っても、自分の生涯が永劫だとしても、この日は一生忘れないでいられるに違いない。


――互いに忘れないように。


耳に蘇った声音に、彼もそうであったら良いと思った。
絶対忘れない、どんなことがあっても、絶対に。


「薔薇はギリシャ時代に、愛・喜・美・純潔を象徴する花とされたそうですよ。それが起源となって、花嫁が結婚式に薔薇を持つ風習となったようです」
「そうなんだ?」


ふと立ち止まった彼を見上げればその顔は興味の引くおもちゃでも見付けた子供のように楽しそうに笑っていて、思わず頬が引き攣った。
こんな表情の時の彼は危険だ。
今までの経験から頭の中に大きく響き渡る警鐘に仰け反って距離を取ろうとする。
けれど繋いだ手に引き寄せられて彼の胸元に思い切りぶち当たってしまった。
うぐぅ、と情けない声で呻くと、腰を屈めた彼の声音が耳元で囁く。


「その時は、もっと大きなバラにしましょう?」





麻衣はどくんと跳ね上がった心臓に、やっぱり煩い、と真っ赤に染まった顔を顰めた。





end




  1. 2010/07/07(水) 00:00:00|
  2. リン×麻衣
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