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windfall 前編




地下駐車場に停めた車を降り、キーロック式のエレベーターに乗り込む。
早く帰ると言っておきながら、今夜は随分と遅くなってしまった。
連絡の一つも入れられたら良かったのだが、同時に事務所を出た上司が同乗した手前、結局マンションに辿り着くまで連絡出来ず仕舞いである。
もしかしたらもう帰ってしまっているかも知れない。

溜め息を一つ零し、目当ての階に辿り着いたエレベーターから足早に部屋へ向かう。
通路側に窓はないため部屋の様子は伺えない。
深夜ということもあり、カードキーを差し込み静かに扉を開いた。

足元を照らす仄かなオレンジの明かりに頬が緩む。
玄関先には小さな女性らしいサンダル。
廊下の先に見えるリビングの磨りガラスのドアからは、煌々と明かりが漏れていた。

彼女に手間を掛けさせないよう脱いだ革靴を揃えていると、背後でリビングのドアが開く音がする。
振り返れば、ほわんと微笑んだ愛しい彼女。


「おかえりなさい、リンさん」
「ただいま帰りました。遅くなってすみません」
「大丈夫だよ、今やっと終わったところなの」


終わったと言われても心当たりは何もなく、首を傾ぐと裸足の彼女が飛びつくように腰元に抱きついてきた。
それを軽く抱きしめてやり、見上げる額にキスを一つ。
手を引かれて歩き出す。


「今日、何の日か知ってる?」
「日付を跨いだ今日ですか?」
「そそ、七月七日」


にこにこと笑みを浮かべながら問いかける彼女に小さく頷く。
用意していたというのは短冊か何かだろうか?
しかし後ろ手にドアを閉めたリビングには特に何も見当たらない。
七夕ですね、と頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうにはにかんでテラスへと続く窓を指差した。


「笹の葉サラサラ、おっきいの!一緒に見よう?」


繋いだ手がするりと抜けて、彼女はテラスへと姿を消した。
離れた温もりが恋しくて、ジャケットをソファへ放るとすぐさまその後ろを追いかける。
開け放たれた窓からは湿気交じりのぬるりとした風が部屋へ流れ込み、レースのカーテンをひらひらと揺らす。


「じゃーん!」


窓に手を掛けて外を覗き込むと、得意気な彼女がテラスの端を指差した。
視線を向ければ彼女の身長など優に超した笹竹がテーブルの向こうに飾られていて、思わず息を漏らす。


「これは…すごいですね」
「でしょう? ぼーさんにおねだりしちゃった!」
「彼がここまで?」
「ううん。流石に運べないから宅配で。そんで、真砂子と綾子と、頑張って括ったんだけど…結構見れるもんでしょう」


得意気ににんまりと笑う彼女の腰を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
裸足のままテラスに下りた彼女を両腕に抱え上げ、下履きを履いて外に出る。


「七夕飾りが天の川へ流れ着くと、その者の切なる願いは永久になる」
「願いが叶うってこと?」
「そうです。七夕の翌日、短冊を海や川へ流すんですよ」


暫く忘れていた一説を紡ぐと、彼女ことんと首を傾いだ。
笹竹に短冊を飾り願い事を書くことで終わるのが一般の七夕なのだろう。
彼女もそれを思い描いていたに違いない。
地域によっては七夕送りに由来するねぶたや竿燈祭りもあるが、これは少々時期もずれていて、地元の人間ですら知らずに過ごしている者も多い。


「禊と一緒です。雨を清めの水として、短冊が流れ消えていくほどの大雨が降ると良い。これぐらいの雨ではいけませんね」
「でも、雨が降ると織姫と彦星が会えなっちゃうんでしょ?」


テーブルを囲ううちの一つの椅子を引いて腰を下ろした。
抱えた彼女に膝の上を跨がせ、向き合うように抱え直す。
片手で背中を支え、ふっくらとした頬に触れる。
温かく柔らかな手触りに惹かれるように反対の頬に口づけた。


「日本ではそう伝えられているのですか?」
「うーん、あたしが聞いたのはそんなんだったけど」
「では、昔話をしてあげましょう」


そう言うと、彼女は大きな瞳を瞬かせて嬉しそうに頷いた。
好奇心旺盛な彼女は自分の知らない事や物などに大いに興味を示す。
それを危なっかしいと感じる時もしばしばあるが、吸収力の早さや順応力には何度も驚かされた。
さて、自分は彼女の気を引くに値する引き出しを持ち合わせているだろうか。


「それは中国の後漢時代に遡った話しです」


その語り出しに、彼女は真剣な表情で一度頷いた。
真面目に話しを聞く体制である。
なかなかにちょっかいを掛けにくくなり、苦笑が零れた。
両手を彼女の腰に回して、小さな身体が転がらないよう指を組む。


「とある夫婦が暮らしていました。天帝の娘の名は織女(しゅくじょ)、牛飼いの名は牽牛(けんぎゅう)。二人は周囲が羨むほどの仲睦まじい夫婦でした」


しとしとと雨の降る闇の中、微かに彼女の頬が赤く染まる。
憧れを抱く夫婦の在り方なのだろう、嬉しそうにはにかんだ彼女の鼻先にキスをした。
結末は違えど、自分もそうありたいと願っているのだと想いを込めて。


「しかし互いが互いに夢中になり過ぎた為に、そう時を経ず仕事すら手につかなくなってしまったのです。余りの暴落ぶりに二人はとうとう天帝の怒りを買い、天の川を隔てて東と西に引き裂かれてしまいました」


感情が分かりやすい彼女がぐにゃりと顔を歪める。
しかしリンの奥底には、同意できる部分があるのだ。
出来る事ならば一日を、一年を、一生を、彼女と二人きりでいられたら。
何処かに閉じ込め自分だけしか見えないようにしてしまえたら、どんなに幸福だろうと思う。
彼女に触れ、その甘い声音を聴き、豊かな表情を飽きることなく見詰めて。
そうして一生を過ごせるという絶対的な確約を提示されたら、自分はどんな禁忌でも犯すだろう。
それは決して彼女には言えないけれど。





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  1. 2010/07/07(水) 00:26:54|
  2. リン×麻衣
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