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windfall 後編




「二人は嘆き悲しみ、周囲の人々の忠告に耳を貸さずにいた己を恥じ、毎夜涙を零します。恋しくて切なくて、会いたくて、食事も喉を通らない。動くことすらままならなくなった二人は、床へ伏す事が多くなっていきました」


悲しそうに瞳を伏せた彼女の瞼に触れた。
ぴくんと震えたそこへ唇を落とし、縁をなぞる様に舌を滑らせる。
いらぬことまで言ってしまった事を少し後悔した。
彼女の性格を考慮するならばもう少し簡潔に話しても良かっただろうか。


「次第に痩せ衰えていく織女と牽牛のあまりの悲しみように、天帝はある条件を出しました。互いを想い合い生涯を正しく真面目に暮らすと言うのならば、年に一度、七夕の日に会う事を許そう」


やっと瞼を上げた彼女に薄く笑みが零れる。
ほんとうに分かりやすい、優しい女性だ。
小さな身体を腕の中に閉じ込めて強く抱きしめた。
顎に触れる柔らかな髪に頬を寄せて息を吸い込むと、甘い香りが鼻を突く。


「こうして二人は年に一度、七夕の日に再会することになったのです。二人は共に居られる事、触れ合うことの大切さ知り、一年間の淋しさを心に秘め、会えない時間を惜しむ訳でもなく、七夕の夜には幸せに睦み合うと」


そう締めくくると、一気に身体の力を抜いた彼女が感嘆の声を漏らす。
満足そうなその声音に背中を摩るように撫で上げれば、身じろいだ彼女が見上げてくる。


「なんかすごい。大まかにしか知らなかったけど、なんていうか、すっごいや。人の振り見て我が振り直せ?」


あれ…ちょっと違うかなぁ、と首を傾いだ彼女に噴き出してしまう。
恋愛に夢中になり過ぎている男女には教訓になる話でもあるのだから、そうとも言えるだろう。
ただ実際そういった場合に引き離されるかそうでないかといえば、明らかに後者が多いのも事実だ。
やはり伝説は伝説、昔話で済んでしまうものであるし、だいたいどれほどの人間が七夕の本当の由来を知っているのかも怪しい。


「日本の七夕祭りは、今話した中国古来の星伝説と、乞巧奠。それに日本古来の神話である棚機女伝説が結びついた行事なのですよ」
「たなばたつめ伝説は古事記で習ったけど、きっこうでん? は知らないなぁ」


きょとんと瞳を瞬かせた彼女の頭をそっと撫でる。
心地良さそうに目を細めた彼女を愛らしいと思うのは、恋人だからというだけではない。
例外もあるかもしれないが、自分の知る限りでは、彼女の周囲に居る誰もがその愛らしい笑顔に癒されているのだ。


「乞巧はたくみを乞うこと、奠は祀るという意味で、七夕にあやかった行事の事です。織女は機織りの仕事を司る星であることから、女性が裁縫・習字に巧みになる事を祈る中国古来の風習ですよ。七夕の夜に供え物をして織女星を祀り、裁縫や習字の上達を祈願する行事の一つですね」
「おぉう!? それはなんと言うべきか…聞いた以上はやらなきゃって感じだよねぇ、苦手だし」
「わたしはどちらでも」


乾いた笑いを零す彼女の背をぽんと叩く。
裁縫や習字が苦手でも特に問題はないように思うが、彼女自身が上達を願うのならばそうしても良いと思う。
現実はそう甘くもないが、願い事をする、ということが女性にとって神聖なものであることに違いはないだろう。
娯楽との分別が難しいところではあるが。


「織女はこと座のベガ、牽牛はわし座のアルタイルの漢名で、和名では織姫・彦星と言います。此方の方が谷山さんには馴染み深い名でしょう?」
「そうだねぇ。織女とか牽牛とか、初めて聞いたし」


途端に戻った話題に首を傾ぎながらも、彼女が頷く。
英名や和名は耳にすることがあっても、漢名は何かきっかけがなければそうそう覚えるものでもないだろう。
自分自身、中国の生まれでなければ知らなかったはずである。


「実はこの星伝説には天文学的な裏付けもあるのですよ。きっとあなた好みの話しです」


そう言うと、彼女は再び瞳を煌めかせ、先を乞うように見上げてくる。
愛らしいことこの上ないが、未だ雨の降り続く空をちらりと見やり首を振った。
外気に晒された肌は時期的に冷える事はないが、じっとりと湿気が張りついて良い気分でもない。
こうして触れ合うことはここでなくても出来るのだから。


「今日はもう遅い。雨の話も含めて明日にでもしてあげましょう」
「えぇーっ!ひどい、そんなこと言われたら気になるじゃんか!」


ぷくっと頬を膨らませた彼女に、右腕に留めた時計を示す。
時刻はもう一時を回っていて、語り合う時間はとうに過ぎている。
後はベッドで、と言いたいところだが、まだやるべきことも残っているだろう。
それはきっと、彼女が楽しみにしていた筈の大切な作業だ。



「願い事は良いのですか? わたしを待っていてくれたのでしょう?」
「それはそうだけどー。なんかもやもやで気持ち悪いよう」


むっと眉を寄せる彼女と唇を触れ合わせ、子供を抱くような体制で立ち上がる。
ハーフパンツに守られた腿が晒されることはなかったが、恥じらった彼女は悲鳴を上げて首筋にしがみついてきた。
下履きを脱いで肘でテラスの窓を閉めてから、彼女をフローリングにゆっくりと下ろす。
彼女の後を追っていた先程は気がつかなかったが、ふと見ればガラステーブルの上に短冊が綺麗に並べられていた。


「リンさんの願いごとは?」


毛足の長い絨毯の上にぺたりと腰を下ろした彼女が振り返る。
切り替えの早い彼女は早速ペンをとって赤い短冊を一枚引き寄せた。
その隣りに腰を下ろし、テーブルに片肘をついて彼女を見詰める。


「あなたはなんと?」
「あたしが先に訊いたんだから、教えてくれなきゃ教えないー」


ぷいっと視線を逸らせた彼女に苦笑が零れる。
いくつになってもこんな所は変わらないのだなと思った。
何があっても変わらない、そこが彼女の良いところの一つであるのだが。


「そうですね、わたしの願いは」


そこで言葉を切って、ついた肘の掌に頬を乗せる。
自分の願いは何であろう。
思いつくものはどれもありきたりで平凡で、けれどかけがえのないものだ。
その全てを願うのは欲張りな気もするが、叶うのならばそうしたい。
けれどその中でも一番強く願うのは、最期の時まで幸せであること。

思考を巡らせていると、待ちきれないとばかりに彼女が右腕を取って揺すった。
ついた肘をテーブルから離して彼女の頬に自分のそれを擦りつける。
暖かい滑らかな頬は、ぎゅっと押し付けるようにして擦るとふわんとはじき返してくる。
その温もりは、彼女が生きている証し。
自分の傍らに存在しているという証明だ。


「あなたが私よりも生き永らえること」
「リンさんっ!」


声を荒げ瞬時に強張った彼女の肩を回した腕で包み、ゆるりと首を振る。
怒っているのだろう、抗うように身体を捩らせた彼女を強引に引き寄せた。


「…と、言いたいところですが。それでは心配で逝けません」


苦笑と共にそう零せば、怒りをそのままに彼女が小さく唸った。
それほどまでに想われているのかと思うと、声を上げて笑いだしたくなる。
彼女と一緒にいると毎日のように思うのだ、幸せとはこういうものかと。
背中を丸めて彼女の頬に口づける。
耳元に唇を寄せて、奥底に吹き込むように願いを告げる。
叶うことならば、私の願いは……



――永久の眠りにつく時は、あなたと共に。




end




  1. 2010/07/07(水) 00:28:00|
  2. リン×麻衣
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