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孤高の花1

side-mai



太陽が空高くあがる頃、布団を両手いっぱいにベランダへと出た麻衣は、グレーの手摺りにそれを掛けると大きく伸びをした。

見渡す限り雲一つない晴天。

ついこの間までは上掛けを羽織って同じことをしていたのに、と思う。
ここ一ヶ月で季節は早々に移り変わり、今日はゆるりと吹く風が暖かくも冷たくもない、文句のつけようのない素晴らしい天気だ。
しかし暖かな日差しが降り注ぐ中、暫し眼下を見下ろすと、麻衣は微かに顔をしかめて小さく息を吐いた。
綺麗な空を見ればその琥珀色の瞳は光を反射して煌めくし、緑の香りを存分に含んだ風が全身を撫ぜればうっすらと色付いたその頬は笑みを象り緩む。
こんな日常的にあるほんの些細なことが、ふとした瞬間とても気持ちの良いものだと感じるのは何故だろう。

麻衣にとっては友人たちと過ごす為だけではなく、天涯孤独の身であり支援を受けているが故に学業中心の大学生活。
そして私生活を支える為、毎日のように駆け足で出勤しているアルバイト。
毎日が追い立てられるように過ぎていくのに、そのほんの些細なことを意識して過ごすのは到底無理な話しで。
自分に少しでも余裕があれば、毎日を幸せだと、こうして陽の下に生きているのは素晴らしいことなのだと、ただひたすらに感じることが出来るのだろうか。
沢山の生命に溢れているこの場所で、そうと感じられてはいる人がどれほどいるのだろう。

勿論麻衣自身、そう感じることがないわけでも、幸せでないわけでもない。
朝日を浴びれば今日も頑張ろうと気合いを入れるし、食事をする前には手を合わせて命を頂くことに感謝をする。
眠る時には、また一日を永らえて良かったとも思う。

――ジーンに会えなくなってからは尚更に。

多くの友人たちに囲まれ笑って過ごせる、そんな日々がとても愛しい。
良いことばかりが続く日もないけれど、悪いことばかりが続く日もない。
それはとても幸せなことだ。
しかしそれも、これまたほんの些細な事で応と言えなくなってしまうのだ、今この瞬間のように。


「まぁったく…何考えてんだか、あのワーカホリック様は」


ぼそりとそう呟くと、眼下で硬いアスファルトの上を忙しなく歩いている人々や、無駄に長い列を作っている車から視線を上げる。
今日はとても良い天気で、風だってすごく気持ちが良くて。
洗濯も掃除もとっくに終わったし、あとは半日も残っているこの素晴らしい休日を満喫するだけだというのに。


「休みにまで仕事することないじゃん」


麻衣はサンダルを脱いで部屋に上がると、ベランダ際のフローリングの床に座り込んでアルミサッシから細い脚を投げ出した。
陽の光を全身に浴びるように、少し後ろに両手をついて体重を掛ける。


「どーせあたしのことなんかこれっぽっちも頭にないんだから」


頬を膨らませ、朝から書斎に籠もったまま一度もリビングへと足を運びもしない黒髪の彼を想う。

ずっと構っていて欲しいなんて言わない。
しかし同じ家の中に居るだけで良いのだとも思わない。
それが今日のような休日でなければそうとも限らないが、それでも少しくらい気に掛けてくれても良いのにと思ってしまう。
それを彼に期待するのは間違っているのだと、姉のように慕う人には鼻で笑われたし、自分でもそれは充分に分かっているのだけれど。


「ナルのばか」
「お前に言われるとは心外だな」


馬鹿にしたような声音が頭上から降ってきて、麻衣は、ぎゃあ!と奇声を上げながらぎゅっと目を閉じた。
動く気配のない彼にそうっと目を開け首を反らして見上げると、書斎に籠城していたはずの彼がすぐ背後まで来ていたことに目をみはる。


「どったの」


口の中で小さく呟いた声が聞かれていたことよりも、彼が茶を所望するでもなくリビングに姿を現したことにただ驚く。
問い掛けながら投げ出していた脚を畳むと、ぐるりと彼に向き直り膝を抱えて座り直した。


「休みまで仕事は嫌なんだろう」


悠然と腕を組みながらそう言う彼に頬が引きつる。
いつからいたんだよ、と問うでもなく小さくごちると彼はご丁寧にも、お前が座り込んだ時にはリビングに、と嬉しくもない答えを返してくれた。


「声掛けてくれればよかったのに」


むぅと頬を膨らませると、彼は馬鹿にしたように鼻を鳴らせた。
組んだ腕を解いてその場に片膝をつく彼を睨み付けるが、彼は意外にも微かに笑みを浮かべて首を傾ぐ。
細い指先がスッと目の前に現れたかと思ったら、鼻先をちょこんとつつかれて身体が揺れた。


「あんなふうに呆けていては呼んでも気付かなかっただろうな」


決してつつかれたせいではなく、彼の珍しい行動に僅かに動揺し後ろに倒れそうになるのを、慌てて両手をついて防いだ。
乱れたスカートの裾をさっと整えられ、自然な動作で何故か脚を伸ばされる。
疑問に思う間もなく腿の上に馬乗りになってきた彼にぎょっと目を剥いた。
文句の一つでも言ってやろうかと唇を開きかけたが、先を強請るような視線に溜め息を吐くことでそれを押し留めた。


「呼ばれりゃ気が付くよ」
「へぇ、それは意外だな」


げんなりとそう言うと、お前にもそんな事があるのかと、からかい混じりの視線を向けられ目を逸らす。

彼に呼ばれて気付かないはずなんてない。
そういうこともあるかもしれないが、今日に限ってはそんなこともなかったと思う。
彼の耳に心地良いテノールは好きだし、その声で名前を呼ばれるのも好きだ。
何より、今日は朝から彼が書斎から出てくるのをずっと待っていたのだ。
どうせ夜まで出てきはしないだろうと思っても、それでもやはり、待ってしまっていたのだから。


「ちょっと、ナル重い」
「嘘をつくな」


誤魔化すように身を捩るが実際は彼の言う通りで、重くもなんともない。
寧ろ微かにしか感じられないその重みが物足りないぐらいだった。

道を歩いていても器用に人を避けながら、ソファに隣同士だって気にも留めずに、果てはベッドの上でも頑ななまでの無表情で読書を続ける彼。
それも彼の性分なのだと認識してからは考えるだけ無駄だと、何も感じていなかったはずなのだ。
それなのにいつからか、何故かは分からないけれど、それを寂しいと思い始めて。
そしてそのなんとも言えない感情に、自分が何も感じていなかった訳ではなく、ただ考えないようにしていただけだったのだと気付かされた。


「嘘じゃないっての」
「加減している」


こうして彼が傍に居て、目や耳や肌で自分を認識してくれていることが嬉しくてたまらないけれど、そんな事は言えるはずもない。

懸命に身を捩って逃れようとする麻衣を追い詰めていた彼の動きが突然ぴたりと止まり、顔を上げた。
太陽の光に照らされ顔をしかめたナルが居て、思わず噴き出す。

麻衣はふと焦がされたアルミサッシの熱を指先に感じ、いつの間にか窓際まで追い詰められていたことを知った。





  1. 2010/07/06(火) 03:34:04|
  2. ナル×麻衣
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