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恋煩い2

side-lin



午前九時五十分。
時間よりも少し早めに到着した、麻衣が住む小綺麗なマンション前。
迷惑にならないよう道の端へ車を止めたリンは、車内ではなく携帯の時計を確認すると、それをシャツの胸元へゆるやかな動作でしまった。

七階建ての二階に住む彼女の部屋を見上げると、レースのカーテン越しにではあるがちょこちょこと部屋を動き回る小さな影が見え隠れする。
その様子に微かに頬を緩めながら、しかし、カーテンをもう少し厚手のものに変えさせなくてはと瞬時に険しい表情に変貌すると心に決め込んだ。



彼女を偶然渋谷の街角で見付けたのはちょうど一週間前。
その日は休みであるにも関わらず細かい資料の整理に追われ出勤すると、新書が昨日の夕方に入荷されたと行きつけの書店から連絡が入り、外出を断るまでもなく即座に遣いを命じられた帰り道。

幼い上司が車を使用するとのことで重たい紙袋を両手に提げながら已むを得なく駅から歩いていると、事務所まであと五分かそこらという所で此方を見つめたまま微動だにしない彼女と目が合った。
少し遠めに見た女性をもしかしたら彼女ではとは思ったが、バイトが入っているわけでもないのにこんな場所で会うとも思っていなかったので、距離が縮まるうちに彼女だと分かって本当に驚いた。


「谷山さん、どうしました」


様子のおかしい彼女に足早に駆け寄ると、どこからそんなに溢れてくるのかと思うほどの大粒の涙をぼろぼろと零しながらジャケットに縋りつかれ、思わず両手に提げていた紙袋を取り落としそうになるが、寸での所で持ち直す。


「うぇっ、リンさっ…ふ!うわぁあああん」


リンの名前を連呼しながら盛大に泣く少女は随分と周囲の関心を集め、ものの一分もしないうちに周囲には抜け出すことが容易ではない人だかりが出来てしまった。

両手が塞がっている今どうする事も出来ずになすがままになっていると、人だかりを掻きわけて同じく休日出勤である安原が駆け寄ってくるのが視界に映りほっと息を吐く。
彼ならばどうにか出来るかも知れないと縋るような視線を向けるが、にっこりと笑った彼はリンの両手から紙袋を取り上げると、頑張ってくださいねー、などとのたまいとびきりの笑顔を残してそそくさとその場を後にしてくれたのだった。

来た時と同じくして颯爽と人だかりを掻きわけてゆくその後ろ姿を呆然と見詰めること数分。
とにかく場所を移すことを提案しようとしがみ付いたままの彼女を胸元からやんわり引き剥がすと、何度も首を振りながらそれまで以上に彼女が泣きじゃくり始めた事に僅かに眉根を寄せる。


「…まいりましたね」


場所を移すにしてもこのままでは何処の店にも入れないのは明らかだ。
聞こえないよう小さく溜め息を吐き、彼女を再び胸元に収めると、小さな身体を引き摺るようにして人だかりを掻きわけて道の端へと移動した。

好奇の視線に晒されるのは別段構いはしなかったが、泣いている彼女をそのままずっと見せつけているわけにもいかない。
睨めつけて蹴散らしてやろうかとも思ったがあまり大業なことをするのもはばかられ、ぐずぐずと鼻を啜る彼女の小さな頭をそっと腕に閉じ込めた。

彼女がこんなふうに人目を気にせず泣くような性格でないことは確かだ。
何か悲しいことでもあっただろうか。
そうでもそうでなくとも、この小さな彼女を少しでも癒してあげられたら良い。

柔らかく触り心地の良い髪の上に頬を滑らすと、懐かしい気分にさせるような香りがした。
たった二カ月こうしていなかっただけで、彼女の何もかもが変わってしまったような気分になっていた自分に失笑が零れる。
彼女はあの時から何も変わっていないのだ。


「さあ、もういい加減泣きやんで下さい。久しぶりに二人でお茶でもどうです」


耳元でそう囁くと、彼女は大きな琥珀色の瞳を零れんばかりに見開いてリンの腕の隙間から顔を出し、涙に濡れた泣き顔をくしゃりと歪めた。



場所は変わって路地裏にひっそりと在る喫茶店。
そこで無意識にであろう、寂しい、と何度もぽつりと繰り返す彼女を前に、安心させるように微かに笑みを浮かべた表情だけは変えず、テーブルの下で握った片手にぎゅっと力を込めた。

彼女が大学へ入学してから会ったのはたったの三回程度だったが、楽し気に大学でのことを話してくれる元気な彼女を前に、自分の出る幕はもうないのだと自分勝手に距離をとっていた自分が情けなくなった。
それと同時に沸々と怒りが沸き上がる。
こんなふうになるまで何も言わずにいた彼女へもだが、それ以上に自分に。
たかが数年とはいえ間近で彼女を見てきていたというのに、心配させぬようにと無理をしていた彼女に何故気付けなかったのだろうか。

今更そんなことを思い憤ったところで詮無いことだとは分かっても、彼女に隠した拳を握りしめる他には出来ることもなく、そう思わずにいられなかった。


――ピクニックに出掛けませんか?


喫茶店を出るなり申し訳なさそうに、じゃあまたね、とあっさりと身を翻した彼女の腕を、無意識に掴んでいた。
どうしようという訳でもなかったが、そうしてしまった以上何かを言わないといけないと懸命に考えて出た台詞がそれだったものだから、ぼうっと見上げてくる彼女が不思議そうに瞳を瞬かせたのを見て、失敗だったと悟った。
けれど同時に、それで彼女の気が少しでも楽になるならばと思ったし、いつ事務所に来るかも知れない彼女を待っているよりは自分の精神衛生上何か約束を取り付けた方が良いのだとも思った。

同じ台詞を再び口にすると、彼女は一も二もなく頷いてくれた。
拒否されなかったことが嬉しくて小さく息を吐くと、再び彼女の瞳が潤む。
何か勘違いさせてしまっただろうかと慌てて口を開いた。


――じゃあ、お弁当持って、普段行かないような場所まで行きたいなぁ。


しかしリンが言葉を発するより早く涙を堪えながら小さく首を傾げて笑う彼女を前に、何も言わずに頷くことが一番であると思いそうした。

携帯を持ったという彼女と連絡先を交換した後は、本当に数えられるほどしかないメールのやり取りで、薄っすらと覚えていた彼女の誕生日の予定をさり気なく聞き、そこが空いているようだったので時間を決めたのが一昨日の夜だ。

まるで不運に見舞われたかのような大変な騒ぎになった彼女との再会は、自分の気持ちを確認するのには充分だったし、彼女の心にも未だ自分が居ることが確認出来たのだから幸運だったのだろう。





ふと彼女の部屋に目をやると、ちょこまかと動き回っていた影が姿を消していて、時間を確認してから慌てて車を降りた。
この近距離でも、弁当を作ると張り切っていた彼女の荷物を少しでも軽くしてあげられたら良いし、車内で彼女が降りてくるのをただ待つのも味気ない。
一人暮らしの女性の部屋を訪ねるのも不躾だろうかと一瞬躊躇するが、それでも彼女に早く会いたいという気持ちは変わらないのでそうすることにした。

あらかじめ教えてもらっていた部屋の前に辿り着くなり、中からけたたましい黒電話の音が聞こえてきて苦笑する。
連絡先を交換する際に部屋備えつけの電話はないと聞いていたから、きっと携帯の音なのだろう。
彼女のことだから時間を知らせるアラームである確率は高かったが、通話である可能性も考え、音が鳴りやんでから控え目に扉をノックした。


「はーい!」


扉越しにもよく通る彼女のソプラノに続き、ぱたぱたと部屋を走る素足の足音。それがすぐに鳴りやむとチェーンを外しているのだろうか、微かな金属音がした。
そうっとではあるが確認もせずに扉を開ける彼女を不用心だと注意する前に、隙間からちょこんと顔を出した彼女とその背後の惨状に苦笑が零れる。


「おはようございます」


おはよ、と小さく紡がれた声音にそう返すと、彼女はごめんなさいと呟いた。
失礼だったかと一瞬で目を逸らしたが、垣間見えた部屋の惨状と顔しか出さない彼女に大体の想像はつく。


「すみません、着替え中でしたか」


極力柔らかな声音でそう言うと、困ったように彼女は眉尻を下げ頷いた。
アイシャドウやマスカラに薄く彩られた琥珀色の大きな瞳が申し訳なさそうに俯いたのを見て、隙間から覗く頭にそっと手を伸ばす。


「私が選んでも?」
「選んでくれるの?」


ゆっくりと頭を撫でると、ぱちりと目を瞬かせた彼女が首を傾ぐ。
それに頷いて見せると彼女は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに頬を染めて、でもっ、とふるふると首を振った。


「あたしまだパジャマなんだ。それに部屋、散らかってるし」
「構いませんよ、あなたに不都合がなければ」


怒ってもいないし他意はないとアピールするためにも始終笑みを浮かべていたのが功を為したのか、すぐに扉は開かれた。

しかしリンはその直後、小さな彼女がパジャマ姿で恥ずかしそうにはにかんで俯くのはかなり目に毒だということ、そして、彼女の匂いが溢れた部屋に入るのはまだ先に伸ばした方が良かったのだということを本能と理性の狭間で感じ取り、機嫌の良い彼女と共に車に乗り込んだ頃には隠すのが億劫になるほど疲れきってしまっていたのだった。





  1. 2010/07/06(火) 03:52:06|
  2. リン×麻衣
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